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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)1426号 判決

原告

板谷卯市

ほか一名

被告

松永吉雄

主文

被告は原告板谷卯市に対して金四三八万七五三二円、及び内金四〇八万七五三二円に対する昭和五三年一月二一日から、内金三〇万円に対する昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告は原告板谷勝子に対して金三九五万七六三六円、及び内金三七〇万七六三六円に対する昭和五三年一月二一日から、内金二五万円に対する昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告両名のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は四分して、その一を原告両名の、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告板谷卯市は金一五〇万円、原告板谷勝子は金一〇〇万円の担保を供したときは、その原告において仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告板谷卯市に対して、金六〇〇万円及び内金五五〇万円に対する昭和五三年一月二一日から、内金五〇万円に対する昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告板谷勝子に対して、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和五三年一月二一日から、内金五〇万円に対する昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求の原因

1  訴外板谷一明は左の交通事故により死亡した。

(一) 発生日時 昭和五三年一月二〇日午前零時ころ

(二) 発生地 愛知県海部郡飛島村東浜一丁目一番地交差点

(三) 事故車両 名古屋五七ぬ自家用普通乗用車

(四) 同運転者 訴外 西光男

(五) 板谷一明は右車両に同乗していたものであるが、脳挫傷、肺血腫右鎖骨々折、頭部挫創の傷害を受け、名古屋掖済会病院において同日午前一時三〇分右傷害を原因とし、直接死因心不全にて死亡した。

2  事故の状況

訴外西光男が前記車両を運転南進中突然運転をあやまり、同交差点南側に設置されている中央分離帯に衝突したものである。

3  原告板谷卯市は右板谷一明の父、同板谷勝子は一明の母で、原告両名が一明の相続人である。

4  被告は本件事故当時前記事故車を保有し、運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条に基き本件事故により亡一明及び原告らの蒙つた損害を賠償する義務がある。

5  右損害の額は次のとおりである。

(一) 亡一明の損害

(1) 逸失利益 二二八七万八七二〇円

一明は昭和三三年二月四日生、本件事故時満一九歳の健康な男子で、訴外篠島飯店稲永店に料理見習として勤務し、月収金一六万円をえていたもので、本件事故に遭遇しなければなお五五年間は生存し、満六七歳までの四七年間は稼働することが可能であり、少くとも同程度の収入をえられたものと推認される。従つて右収入額を基礎とし、その五〇パーセントを生活費として控除し、年五分の割合により中間利息を控除すると、今後四七年間に得べかりし利益の現価は二二八七万八七二〇円であり、本件事故によりこれを逸失したものである。

(2) 慰藉料 二〇〇万円

一明は、本件事故時前記のとおり健康な料理見習人で、将来は店舗を構えて飲食店を自営せんとしていた前途ある青年であつたのに、瞬時の間にこれを失い、かつまた楽しい青年時代を送ることなく非業の死をとげるに至つたもので、その痛恨の思いは甚大であり、これに対する慰藉料は金二〇〇万円を下らない。

(3) 以上合計二四八七万八七二〇円の損害の賠償請求権は、原告両名において各二分の一の金一二四三万九三六〇円を相続した。

(二) 原告卯市の損害

(1) 治療費 九万六〇二〇円

(2) 雑費 五〇〇円

(3) 葬儀費 六八万〇四五五円

(4) 慰藉料 三〇〇万円

計 三七七万六九七五円

(三) 原告勝子の損害

(1) 慰藉料 三〇〇万円

6  以上により、相続した分を併せ、原告卯市は一六二一万六三三五円、原告勝子は一五四三万九三六〇円の損害賠償請求権をそれぞれ取得したものであるところ、自動車損害賠償責任保険から原告卯市において七五九万七三二〇円、原告勝子において七五〇万円の賠償金をそれぞれ受領したので、これを控除した残債権額は原告卯市が八六一万九〇一五円、原告勝子が七九三万九三六〇円である。

7  原告らは原告卯市において右の内金五五〇万円、原告勝子において右の内金五〇〇万円の支払を求めて本訴を提起するにあたり原告代理人に訴訟追行を委任して、弁護士報酬として判決認容額の一〇パーセントに相当する報酬を支払うことを約した。従つて、各五〇万円を損害として被告に対して賠償を求める。

よつて被告に対して、原告卯市は六〇〇万円、および内金五五〇万円に対する本件事故の翌日である昭和五三年一月二一日から、内金(弁護士報酬)五〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告勝子は五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する前同昭和五三年一月二一日から内金(弁護士報酬)五〇万円に対する前同昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  被告の答弁

請求原因1の事実中、訴外板谷一明が訴外西光男の運転する原告ら出張の車両に同乗していて事故にあい、死亡した事実は認めるが、その余の点は知らない。請求原因2の事実中、本件事故は右車両が中央分離帯に衝突したものであることは認め、その余の点は否認する。請求原因3の事実は認める。請求原因4の事実中本件事故車両を被告が保有していたことは認めるが、その余の点は否認する。請求原因5ないし7の事実はすべて否認する。

三  被告の抗弁

1  本件事故時、本件事故車両は訴外西光男が無断で持出して自己のために運転していたものであつて、被告が運行の用に供していたものではないから、被告には本件事故につき何ら責任を負わない。

2  また仮に被告に賠償責任ありとしても、訴外板谷一明は本件事故車に好意同乗者として同乗していたものであり、また本件事故は速度違反をなして中央分離帯に衝突したものであるから、板谷一明は同乗者として運転者西光男の運転速度を是正させて事故の発生を防止すべき義務があつたのにこれを怠つた重大な過失が加つて本件事故を招いたものである。従つて本件損害賠償額については相応の過失相殺がなされるべきである。

三  抗弁に対する原告らの答弁

被告の抗弁事実をすべて否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  訴外西光男が運転し、訴外板谷一明が同乗していた原告ら主張の車両が、道路の中央分離帯に衝突する事故が発生し、その結果右板谷一明が死亡したこと、被告は右車両の保有者であり、原告らは右一明の両親でその相続人であることは当事者間に争いがない。そうして右事故発生の日時、場所が原告ら主張のとおりであることは、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一号証に明らかである。

二  証人若林静雄の証言によれば、本件事故車両は、被告がその経営していた松永工務店の営業のためにその従業員に使用させていたもので、右営業の包括的責任者である訴外若林静雄が右車両の鍵を他の車両の鍵と共に松永工務店の事務所内の机の無施錠のひき出しの中に保管し、右車両を使用するものは右若林に運行先を告げて運行することとしていたこと、訴外西光男は被告の甥で右松永工務店の従業員として雇用されていたものであつて、日頃右の如く訴外若林に告げて本件事故車を運転していたものであるが、本件事故当日は無断で鍵を持ち出して本件事故車を私用のため運転してその途中本件事故を起したものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。右の事実によれば、本件事故時の運行そのものは被告の業務のためではなかつたにせよ、なおその運行は被告の支配下にあつたものというべく、被告は本件事故につき運行供用者としての責任を負うべきものである。

三  そこで被告の賠償すべき本件事故による損害の額について判断する。

1  亡一明の損害

(一)  逸失利益 二〇〇一万九〇九〇円

原本の存在及びその成立に争いのない甲第二号証、並びに原告板谷卯市本人尋問の結果によれば、亡一明の生年月日、本件事故前の健康状態、職業が原告ら主張のとおりであることが認められ、原本の存在につき争いがなくその成立の真正は右尋問結果によつて認めうる甲第四号証によれば、亡一明の本件事故前三ケ月間の平均月収は一四万円であつたことが認められる。右の事実によれば、亡一明は本件事故に遭わなければ、なお四七年間は稼働してその間少くとも右と同額の収入を得ることができ、生活費としてはその五〇パーセントを要するであろうと推認される。従つて右を基礎にホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除すると、その得べかりし利益の本件事故時の現価は二〇〇一万九〇九〇円である。

(二)  慰藉料 二〇〇万円

前認定の本件事故の態様、及び右認定の事実によれば、亡一明の慰藉料としては二〇〇万円をもつて相当と認められる。

以上亡一明の損害は右の合計二二〇一万九〇九〇円と認められる。

2  原告卯市の損害

(一)  治療費 九万六〇二〇円

原本の存在並びに成立に争いのない甲第五号証によれば、亡一明の本件事故による受傷の結果、その死亡までの治療費として原告卯市において右金額の出費を要したことが認められる。

(二)  雑費 五〇〇円

原告卯市本人尋問の結果により認められる。

(三)  葬儀費 五〇万円

いずれも原本の存在につき争いがなく、その成立の真正については前同本人尋問の結果により認めうる甲第六ないし第一三号証によれば、亡一明の葬儀のために原告卯市においてその主張額の金員を支出したことが認められ、内金五〇万円が本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

(四)  慰藉料 三〇〇万円

前同本人尋問の結果により認められる、亡一明は原告両名の長男であること、並びに本件事故の態様その他前認定のすべての事情を斟酌し、原告卯市に対する慰藉料としては右額の金員をもつて相当と認められる。

以上原告卯市の損害は右の合計三五九万六五二〇円と認められる。

3  原告勝子の損害

慰藉料 三〇〇万円

前同様すべての事情を斟酌して、原告勝子に対する慰藉料としては右額の金員をもつて相当と認められる。

4  ところで証人若林静雄の証言によれば、亡一明は本件事故当日前記松永工務店の事務所へ訴外西光男宛に再三架電し、同訴外人は仕事で不在であつたために午後六時半ころの電話にようやく応対したこと、その後間もなく一明が松永工務店に訪れて、訴外西の運転する本件事故車に訴外西川清(訴外西の紹介により松永工務店に雇用されていた。)と共に同乗して外出したものであることが認められる。右の事実によれば、亡一明同乗の目的は明らかではないが少くともいわゆる好意同乗であつたものと推認されるのであつて、本件事故態様が前認定のとおり深夜、道路の中央分離帯に衝突したものであることをも併せ考え、被告に賠償を請求しうるのは信義則上右損害額の内八割相当額と解すべきものである。

従つて亡一明は一七六一万五二七二円の賠償請求権を取得したものであるところ、その死亡によつて原告両名においてそれぞれ二分の一である八八〇万七六三六円の請求権を相続したものと認められる。そうして、原告卯市は自己固有の損害の八割である二八七万七二一六円と右相続による分の計一一六八万四八五二円、原告勝子は自己固有の損害の八割である二四〇万円と右相続による分の計一一二〇万七六三六円の各賠償請求を取得したものである。

5  弁論の全趣旨によれば、原告両名はそれぞれその主張どおり自動車損害賠償責任保険から損害賠償金を受領したことが認められるので、右請求権の額から右受領金額を控除するべく、控除後の原告卯市の請求権は四〇八万七五三二円、原告勝子の請求権は三七〇万七六三六円である。

6  さらに前掲本人尋問の結果によれば、原告らは弁護士である本件原告ら訴訟代理人に本件訴の提起、進行を委任し、請求認容額の一割に相当する金額の報酬を支払う旨約した事実が認められ、本件事案の内容、訴訟の経過、認容額等に照らして、その支払うべき報酬金の内、原告卯市の分は三〇万円、原告勝子の分は二五万円を、本件事故と相当因果関係ある損害として被告が賠償すべきものと認められる。

四  以上の理由によつて、原告卯市の請求は金四三八万七五三二円及び内金四〇八万七五三二円に対する本件事故後である昭和五三年一月二一日から、内金三〇万円に対する本件事故後である昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める限度で、原告勝子の請求は三九五万七六三六円及び内金三七〇万七六三六円に対する前同昭和五三年一月二一日から、内金二五万円に対する前同昭和五五年六月一〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるのでこれらを認容し、右を越える部分を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小島寿美江)

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